2025/07/02世間の学校
人を読む「野中 郁次郎」
経営は難しい。1 人では成し遂げられないものを 2 人以上が協力して 1+1=2 以上にす
る仕組みをどう構築するか。経営学は、この問題に取り組んだ学問であり、比較的新しい
分野といえる。日本の経営学は海外からの輸入で発展してきた。そして、日本の経営者の
多くは、P.F.ドラッカーの影響を受けた人が沢山いるが、それに劣らないくらい多くの経
営者に影響を与えたのがこの人、野中郁次郎。惜しくも今年(2025 年)1 月 25 日に肺炎
のために亡くなったが、世界に通用する経営理論を打ち立てた人と言えるだろう。
東京の下町(墨田区本所)に生まれ、父は足袋職人、母は縫製工場を経営しており、家
業を継ぐために商業高校に行くも「簿記が体質に合わなかった」ことから、早稲田大学政
経学部に進む。学生時代は山登りや読書会三昧で、就職は富士電機製造(現:富士電機)
に入社し、総務課に配属され、同僚の女性と結婚し、その後、教育課に移った時に、アメ
リカの「ケーススタディ」に出会い、刺激を受ける。
この人にとって、この出会いが人生のターニングポイントといえる。会社をよくするに
は、どうすべきか。組織を強くするにはどうあるべきか。個々の会社ごとに学ぶ必要があ
り、ケーススタディこそ最良の教科書と知る。これがその後の経営学への道のスタートラ
インとなる。その後、カルフォルニア大学バークレー校で MBA(経営学修士)を取得し、博
士論文「組織と市場」を書き、これが社会的に評価され、日経経済図書文化賞を受賞する。
この賞は、日本における経済、経営関係の最高の名誉であり、これをきっかけに南山大
学に進み学者への道となる。野中経営学の特質は、
①コンピューターのような機械的な人間ではなく、生身の生きた人間そのものを研究対象
としたこと
②経営における情報の重要性もさることながら、情報だけでなく、暗黙知を含めた知識を
通じて経営を観察したこと
③経営学そのものだけでなく、広い学問領域を融合して経営学、心理学、社会学といった
個別学問領域の基礎に立ち返って理論構築を行った
以上の点にある。「組織と人間」という永遠のテーマを追い続けた一生といえる。晩年は
日本陸軍の太平洋戦争の「失敗の研究」から「失敗の本質」を考えて行った。失敗も成功
も組織における人間を扱う上では不可欠の研究テーマといえよう。