2023/05/25世間の学校
数字は語る「8%以上から 10%以上へ」
日本経済の失われた 30 年を典型的に象徴するものに株式市場の低迷と株価の低さがある。企業の価値とは何
かについては、議論があるが、1 つの考え方として、株式時価総額という考え方がある。これは、今の株価で企
業が発行する全株式を購入したら一体いくらかかるのかという仮定の数字。そうすると、ここで問題となるのが、株価。株価は市場における需要と供給で決定される。
そして、株価が企業の実態に比べて安いか高いかの尺度の 1 つは利益水準にあるといわれている。株価と利
益水準は密接な関係があるとされている。特に 1 株あたりの利益の何倍まで株式が買われているかというPER(PriceEarnings Ratio)が有名。そうなると企業価値は利益を反映することになる。利益が企業価値を決める
とすると、その利益は高いか安いかは何を比較して考えるべきか絶対額で見ると企業規模の大小で決まってしまう。企業規模にくらべてどれだけ稼いでいるのかという比率で見ることが考えられる。株式市場は、株主中心の
立場からみるので、株主持分との関係で利益を考えて ROE(Return on Equity)自己資本利益率となる。これが
低いから利益水準は低いと見なされるのだ。この点に着目して、2014 年に当時、一橋大学教授だった伊藤邦雄
氏は「伊藤レポート」を発表し、ROE8%以上が目安と提言。その結果、比較できる 400 社の 3 年平均は、21
年度に 8.3%と 10 年間で 3.4%上昇した。近年は、8~9%程度で伸び悩んでおり、アメリカの 18.8%とは比べも
のにならない。ROE を分解すると、純利益/自己資本=(純利益/売上高)×(売上高/総資本)×(総資本/自己
資本)となる。この数値から考えると、ROE は、売上高純利益率と総資本回転率と財務レバレッジを掛け合わせ
たものとなる。ROE を高めるには、①純利益を高めて、高採算の売上や低コスト経営で、収益力を高める ②純
資産を何回も回転して、効率性を上げる ③財務レバレッジは、負債を活用するレバレッジ経営だ。このうち、
とりわけ日本企業の特質としては、売上高純利益率の低さが目立つ。売上高純利益率の原点を探ると、売上高営
業利益率、更には売上高売上総利益率となり、要するに荒利益・粗利益を高めろということになる。こう考える
と極めてシンプルな結論にたどりつくことがわかる。ROE10%の道のりは、まず、売上高粗利益率を高めよ、と
いうことになる。この点は中小企業も同じ。まず粗利(荒利)を高めなさいと。